今回は京都祇園でノンアルコールスピリッツの製造販売ならびにノンアルコールカクテルを提供する「幾星 京都蒸溜室 IXEY Non-Alcoholic Spirits Kyoto Distillery & Salon」オーナーの織田浩彰さんにお話をうかがいました。
織田さんのこれまで
織田さんは、2014年、植物のエッセンスをお酒に溶かし込んだ薬草リキュールなどの「飲む香水」をテーマにした「喫酒幾星」を京都祇園にオープンしました。
当時、薬草リキュールは日本で多く取り扱われていなかったため、本場で学ぶために渡欧し、6か国70か所以上の蒸溜所を訪れ、リキュール製造技術を学びます。
コロナ禍にお客様へ提供したノンアルコールカクテルに未来を感じ、2022年末、ノンアルコールドリンク・カクテルを提供するバーそしてノンアルコールスピリッツ蒸留所を併設した蒸溜室をオープンしました。
そして今年3月、満を持してノンアルコールスピリッツ「miatina(ミアチナ)」の店頭販売を開始しました。
薬草リキュールとの出会い
織田さんが薬草リキュールに興味を持ったきっかけは、16世紀ごろからフランスの修道院で作られている「シャルトリューズ」でした。
その頃、日本では薬草リキュール自体の認知度がまったく無く、薬草リキュールを好んで飲む織田さんは、周りから変わり者扱いされていたそうです。
織田さんの中で薬草に特化したお店を持とうと考えた理由は大きく3つありました。
1つめは、当時、薬草リキュールは、ワインやウィスキーのような種類がなかったこと。
2つめに、有名なお酒は時代と共に値上がりして若い世代は飲めないが、認知度の低い薬草リキュールであれば、美味しいお酒を安く提供ができること。
そして3つ目に、まだ誰も扱っていない薬草リキュールという新しい分野では、キャリア関係なく平等に戦うことができる。
織田さんの心に迷いはありませんでした。
現地で衝撃を受けた、蒸溜の世界
既製品や自家製の薬草リキュールなどを使ってお店は順調でしたが、とにかく日本で手に入るリキュールがなく、自家製をするにも情報がありませんでした。
これは自分で情報を取りに行くしかない!
ということで、単身渡欧。ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、スイスで70か所以上の蒸溜所を回ります。
もちろん、「蒸溜所巡りツアー」なんてものはないので、自分で探して見学の交渉をするしかありません。
そして織田さんは、ヨーロッパの地で衝撃を受けることになります。
薬草リキュールの企業秘密は、使用している素材や配合ではなく、「抽出方法」だと知るのです。
リキュールに使用している薬草については各メーカーで公開はしているそうです。しかし材料をそのまま使って再現できるものではありません。
実際に蒸溜工程の全て見学はできませんでしたが、織田さんの概念が変わった瞬間でした。
これまで自己流で漬け込んだ自家製の薬草リキュールは、恥ずかしくて帰国後すべて捨ててしまったそうです。
コロナ禍で確信できたノンアルコールの可能性
織田さんが蒸溜について本場で学び帰国した頃、ボタニカル・ジンの流行で、アルコールを使った蒸溜を始めるバーテンダーが増えてきていました。
織田さんはここでも変わり者を発揮し、アルコールではなく「水」を使って蒸溜してみようと思いつきます。これが想像以上に香りが良く、面白いので色んな素材の抽出を始めるのです。
そして2020年、コロナ禍に突入し、飲食業界はアルコール提供ができない厳しい状況に陥ります。織田さんは、これまで作ってきた薬草の蒸溜水、いわゆるノンアルコールスピリッツを使ったノンアルコールカクテルをお客様に提案してみました。
すると、「アルコールと変わらない満足感がある」と、とても評判が良かったのです。
「アルコールが含まれていなくても、お酒を飲んだ時の満足感や高揚感がある。
ノンアルコールスピリッツでコロナ禍でも戦える。」
そう思った瞬間でした。
お客様の声が確信に変わり、これまで人と違うことをやってきた織田さんの背中を押してくれました。
更にお店で提供する、ノンアルコールスピリッツを気に入ってくださるお客様から、商品化を希望する声もあり、2022年にノンアルコール専門のバーと、ノンアルコールスピリッツ専門の蒸溜室をオープンしました。
織田さんとしては、薬草蒸溜の第一人者として、次のステップへ進む大きなきっかけとなりました。
まずは、ノンアルコールの「評価軸」を作るところから。
ノンアルコール専門店を立ち上げて、約4カ月。
もちろんオリジナルのノンアルコールカクテルのメニュー化など期待の声も多いのですが、驚くことに織田さんとしてはオリジナルの開発はまだまだ先の目標とのこと。
まず織田さんがやりたいことは、
「スタンダードカクテルを、ノンアルコールに落とし込む。」
これがなかなか難しい作業だと言います。
「世の中に新しいものが出ていくとき、基本セオリーや過去の功績を引用することが多いと思うんです。
絵画であれば、ある有名な画家の絵画が評価され、題材や構図、手法が使われ新しい作品が生まれていく。
ノンアルコールカクテルは、まだ評価軸がない状態なので、まずはカクテルの模写から初めています。
マティーニの味を知っていれば、「ノンアルコール・マティーニ」をイメージしやすいので、飲んでみようと手を出しやすいのではないでしょうか。
再現性があれば、その方にとってノンアルコールの世界は広がる。まずはそこからかなと考えています。」
ノンアルコールスピリッツの更なる展開
バーと蒸溜所も安定し、今年3月、待望のノンアルコールスピリッツ「ミチアナ」を発売開始。
現在は3アイテム、店舗のみの販売ですが、季節ごとのノンアルスピリッツの開発や販路拡大など、すでに今後の展開を考えて準備に入っているそうです。
「『ミチアナ』という商品名は、植物のエッセンスを抽出した京都の水を味わう「水旅(みなたび)」をイメージしています。
『初めて味わう未知のもの』、あえて聞きなじみのない言葉を考えました。
飲まれた方が『ミチアナ』という言葉からどんな印象を持たれるか、それぞれの水旅を味わっていただけたら嬉しいです。」
最後に
「ノンアルコールドリンクはとても面白いジャンルです。
これからもっと多くの人に参入してほしいと思っています。
新しいことはみんなで作っていかないと面白くないですし、ジュースのようなものしかなかったノンアルコールドリンクも、プロが本気で作れば、アルコールの満足感に負けない、最高に美味しいノンアルコールができます。
日本全体で盛り上げていきたいですね!」
すでに市場が出来上がっており、高品質な商品が多い酒類市場の方が安定している。
そんなことは百も承知で、織田さんが新しいノンアルコールの薬草蒸溜という分野を開拓し、アルコールの模写から始めることで、お客様が安心して水旅ができる。そうまさに織田さんは水先案内人のような人。
これからも変わり者の織田さんのアンテナから生まれる薬草蒸溜の世界が楽しみで仕方ありません。
「幾星 京都蒸溜室 IXEY Non-Alcoholic Spirits Kyoto Distillery & Salon」店舗情報は ☛こちらから
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